功利主義と分析哲学('10)−経験論哲学入門− 第12回 観察と不確実性(講義メモ)

帰納の謎

ネルソン・グッドマンの「グルーのパラドックス」を題材にして、帰納法にまつわる現代分析哲学の議論、およびポパーやクーンなどの現代科学哲学、そして生物学の哲学について解説する。 


【キーワード】帰納と演繹、反証主義パラダイム

帰納法をめぐる問題

帰納法=データを積み重ねて何かを知るというプロセス。確実な知識には原理的に到達できない(不確実性を完全に排除することは出来ない)。F.ベーコンの「単純枚挙」、D.ヒュームの「帰納の問題」――現象Aと現象Bとが恒常的に連接していたとしても、未来にもまた同様の連接が生じることは理論的には正当化できず、単にそれを信じるということに達するのみである――として古くから指摘されている。これが「経験による知識」の根本問題である。


「確証」=ある命題や法則に関して、(厳密に証明されることは不可能であると前提した上で、)経験的なデータを得ることによって、それが真理である度合いが高まること。

帰納法の「確証」に関する新たな難問

代表的な問題が以下の二つ。特に後者のグルーのパラドックスは、観察可能性の困難さを突きつけるものである。

観察について

20世紀の科学哲学

まず論理実証主義(言葉の意味を検証可能性に求める。検証を積み重ねることで真理に近づく)という考え方があり、ウィーン学団のR.カルナップは帰納論理の確立を目指した。それに対し、K.ポパー反証主義的観点から論理実証主義を批判し、帰納的ではなく便益的な推論方法を科学的知識の基礎として導入しようとした。


ただし論理実証主義反証主義は、テスト命題の真偽が観察や実験によって判明する、ということが前提視されているともいえる。そこに対する反論として次のような理論が展開されている。

  • 「観察の理論負荷性
    • 理論によってこそ観察という営みが成立するという考え方。N.R.ハンソンが提唱。観察においては、観察者自身の理論や知識が大きく影響すると主張した。
  • パラダイム」論
    • 科学的な仮説や理論は、通常「パラダイム」と呼ばれる科学研究を導くモデル・模範に従って展開され、ある科学理論が別の理論によって打ち倒されるのはパラダイム転換により達成されるとした。異なる仮説間の優劣はつけられないとする考え方でもある。T.クーンが提唱。
21世紀の科学哲学

関心の中心は生物学の哲学へと移っている。経験的に生命現象を観察することの意義をどう捉えるか。現在、主な争点となっているのは以下の二点である。


以上のように、今日の分析哲学の課題はこうした不確実性をどのように扱うのかという点に要約できる。