明日の当事者である自分のために@『困ってるひと』 大野更紗


大野更紗さん(@wsary)の『困ってるひと』が文庫化したようです。読んだのは昨年単行本が出た頃なのですが、ずっと上手いこと言葉にできずにいました。今さらですが、感想を書いておこうと思います。


突如として著者を襲った奇病との格闘。そして闘病をとおして目の当たりにする「穴だらけの福祉制度」の実態。難病という不幸だけでなく、社会制度という複雑怪奇な「モンスター」と戦わざるを得なくなった体験をつづったエッセイです。多くの人が語っているように、ユーモアたっぷりの文体が救いなんだけど、描かれる「現実」は重い。キツイ。著者がいい感じに薄めてくれているおかげで読み手のハードルは確実に下がっているでしょうね。。


僕自身も難病を患う当事者だったりすることもあって、著者に対する共感はかなり大きかったです。本書では、身体に異変が現れてから病名が判明するまでに1年ほど掛かった(その間、検査の連続。もちろんずっと体調は最悪)というエピソードが紹介されてるけど、僕の場合もやっぱり数ヶ月かかりました。さすがは「難病」というだけあって、まず症状自体が複合的で複雑だったりするし、医師側もまずは症例の多いものから順に疑っていくので、とにかく原因が分からない・効果が出ないという期間が長くなりがちなんですね。じつは不調を訴えた初期の段階で病名の「正解」が候補として挙がってはいたのだけど、「可能性としてはあるけど、まあ数万人にひとりだから。それは大丈夫でしょう(笑)」とかスルーされたのも良き思い出です。あの医者禿げろ。


病名が分かりようやく治療開始…>< となってやってくるのが福祉制度との闘いです。難病治療には高額な医療費が掛かるので、それを助成してくれる制度があります(ただし全ての難病が対象というわけではないです。僕の病気は運よく助成対象として認定されていました)。このこと自体は本当にありがたい話――なのですが、制度自体の複雑な体系に加えて、手続きがとにかく煩雑で……。
なにせ申請窓口は保健所、申請書類には住民票や所得の証明書が必要で市役所へ行く必要あり。遡って助成が受けられるのも、申請が受理された日からなので、一日でも早く申請しておきたい(それと別に職場・学校への休職・休学申請も有)。言っときますが、その瞬間もこっちは病院のベッドの上で満身創痍です(^o^)/


さらには助成内容も決して万全ではありません。症状はそれこそ人によりけり。働けるか否かはもとより、今後介助なしに日常生活をやっていけるのか……みたいな状況に立たされるわけですよ。僕の場合は幸いにも症状は軽快に向かい、いまでは健常者とさほど変わらない生活を送れていますが*1、発病当時は大野さんと同じように学生で、「障碍者として仕事を探す必要があるだろうか?」という悩みを持った時期もありました。


そのときの体験が、どちらかといえばマッチョな思想に毒されていた当時の価値観(まだ何もしらない学生のくせに!)を大きく崩したのは間違いありません。病気に限らず、交通事故や事件に巻き込まれるなどする可能性は誰しも持っています。明日、「貧乏くじ」をひくのは自分かもしれず、隣にいる大切な人かもしれないのです。ハズレくじを引いたときに初めて福祉制度の現実に気づくわけですが、けっこう絶望できる要素満載ですよ!


「助けてもらえるだけありがたいと思え」?
いや、「あるだけマシ」じゃ全然生きていけないんですって。。。


大野さんはそうした「あとで初めて気づく」類の現実を、まえもって可視化する活動をしてくれているひとりだと思います。社会保障の問題は他でもない自分自身の問題であり、制度の充実は将来の(不幸な)可能性に対する保険です。しょこたんも大絶賛。みんなで大野さんを応援しよう。


「困ってるズ!」は「見えない障がい」をテーマにした情報共有メールマガジンです。このメールマガジンは、わたしのフクシ。とシノドスのコラボ企画です。様々な障がい当事者にコラムを執筆していただき、不定期(多めの頻度)で配信します。障がいと一言でいっても、「困ってること」は実に多種多様。生の声に触れると、初めて気づかされることに違いないでしょう。目から鱗との体験を、みんなで一緒にシェアしませんか?

しょこたん(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!

*1:もちろん未だ完治したわけではないですけどね。