『朝生』時代の終焉と、『ニッポンのジレンマ』の残念さ #NHK

元日にNHKで放送された『新世代が解く!ニッポンのジレンマ〜震災の年から希望の年へ〜』を見た。1970年以降生まれ、いわゆるロスジェネ世代の論客を集めた討論番組で、日本の政治・社会システムに対する「若い世代(僕らと同世代)の声」がじっくり聞ける内容だった。
パネラーたちの間で概ね見解が一致していたのは、以下のようなことだと僕は認識した。

  • 日本の社会システム(OS)は、経済成長を前提とする戦後復興当時にできたもの。本来なら、高度成長時代や冷戦終結の頃にアップデートすべきはずだったものが、未だ対症療法を繰り返しながら使われ続けている。年金や少子高齢化、雇用問題をはじめ、現在起きている主要な問題は全てそれを起因としている。さっさと現実に見合ったシステムに作りなおすべき。
  • そもそも人々のライフスタイルは多様化し、世界は複雑になっている。もはや社会全体で共有する正しさや価値観など存在しえない。また経済成長を引き起こすイノベーションは民間の力で勝手に起こるもので、国が見出せるものじゃない。むしろ国家は民間(市場)の邪魔をしないことが重要であり、治安維持や社会保障といった最低限の役割を国家は果たすに留まるべき。(小さな政府論)
  • 国や自治体の政策決定において、自分たちの声が届かないという事が基本的な不満に繋がっている。当事者や場に参加していない専門家はもちろん、非専門家・非当事者たちについても同じ社会に生きる「遠い当事者」の声として可視化する仕組みが必要になってきている。


これらは僕自身も普段考えていたことであり、同世代の人たちと問題意識を共有できていることが改めて確認できたのはとても良かった*1ニコ論壇をはじめ、ネットでは以前から「日本2.0」的な話は徐々に盛り上がりを見せていたけれど、ついにテレビの電波にこうした声が乗ることになった。その意義は大きい。

朝生もぼちぼちバージョンアップへ

番組冒頭、飯田さんと宇野さんが互いに一歩も引かず発言し合うのを見て、司会の堀アナが「田原さんの番組みたいになっちゃう(笑)」と和やかに制止する場面があった。これは堀さんのナイスプレーで、以降はパネラーひとりひとりの意見をしっかり聞ける平和的なディスカッションになる。討論番組というと、まず思いつくのはやはり『朝まで生テレビ』だが、朝生の場合、各パネラーの主張が必ずしもフェアに取り上げられず、声の大きい人が主導権を握りがちなところがあって、そこが最大の弱点だった。それは田原総一郎が作り出すある種のショーであり、プロレスだ。僕もあの「田原劇場」は結構好きなのだけど、パネラーが発言途中で遮られ、それが是非とも代弁して欲しいことだったりするもんだから、なかなかにストレスフルな番組でもある。


『ニッポンのジレンマ』には、その手のストレスは比較的少なめだったように思う。と同時に、朝生的な討論番組のスタイルはもう不要なのじゃないかと感じた。アレは政治が人々を刺激しない時代に編み出された、田原さんの「工夫」なのであり、政治・政策論への関心が高まる今、討論そのものを煽るパフォーマンスはもはや要らないと思うのだ。田原さんの持ち味は、むしろ朝生以外の場所(対談とか)でこそ発揮されていくことを期待していきたい。

ありがとう、さようなら朝生の田原さん。

『ニッポンのジレンマ』の空虚な一体感

さて既存の討論番組と比較して、「実り」を多く感じられた『ニッポンのジレンマ』ではあるが、大いに不満を感じる部分もあった。それは番組のエンディングに集約されているように思う。ほんと、あの終わり方はなんなのかしら?


番組の最後、各パネラーがひと言ずつ感想を述べた後、堀さんがミョーに綺麗にまとめてしまうのだけど、ここにまず違和感。そしてスマップの「夜空ノムコウ」とともに出演者が解散する光景を映すラストシーン。微妙に(思い切り?)感動を誘う演出。ちょっとあのラストは寒いよねぇ・・・。そんな尺あるなら、少しでも討論部分を増やして欲しかった。


あの演出がなぜ寒いのかと言えば、「戦後世代の尻拭いさせられて大変だけど、まあ同じ世代同士、連帯して頑張ろうよ!」というメッセージが露骨に透けて見えながら、暗黙的に排除している人たちが居ることに無自覚だからですよ。たとえばタイムライン上で指摘があったように、難聴の人たちはあの番組をほとんど追えないのではないか、という点。事前収録なのだから字幕くらい入れられるじゃんと(デジタル化してるから字幕は自由に出せる?)。そもそも今回放送された部分だけ見れば、やはり「健常者」を暗に前提とした社会の話をしている印象を受ける。他にも在日外国人、男女の非対称の問題など、もっと話を拡げてほしい部分はたくさんあった。


いやまあ凄く大きな話をしているから、そこまでの余裕がないのも分からないでもない。ただそうしたマイノリティが抱える問題意識って、じゃあ一体どこでじっくり議論されんだよ? と思っちゃうのよね。そんな中、猪子さんの「俺たちはマイノリティだから〜」(世代間対立においては)という発言が、妙に無防備でアホっぽく見えてしまった。「日本国籍をもつ健常者(かつノンケ男性)」というだけで、僕たちは強者でありマジョリティなのだ。本当にマイノリティに属してしまっている人たちは、マジョリティの無邪気な「連帯」を見せられて何を思うのだしょ。


あと6時間討論した最後の最後で、杉浦アナが「自分は今まで何にも考えてこなかったんだな〜と気付きました。これからは自分なりに考えていこうと思います!」的な素朴すぎる感想にもぶっほwwww 癒し系だなァ〜もォ〜〜♪


と、僕にはそれらの点が残念に感じられたのだけど、とはいえやはり大きな一歩だと思えた。NHK先生の次回作にも期待。

追記(1/5)

パネラーの澁谷さんが番組への提案という形で感想を書かれてました。
『ニッポンのジレンマ』のジェンダー非対称性: お知らせ - 澁谷知美サイト別館


あと番組の再放送も以下の時間帯で決まった模様。見逃した方はぜひ。

NHK教育テレビ 2012年1月7日(土)深夜25時20分〜28時20分
(日付け的には1月8日(日)の午前1時20分〜)

1月中にNHK総合での再放送も予定とのことです