公共哲学('10) 第13回 ローカルな公共性(講義メモ)

ローカルな公共性

地域や地方自治体が直面する公共的価値をめぐる問題について考察する。廃棄物処理場原子力発電所の立地など、いわゆるNIMBY (Not In My Back Yard) 問題を取り上げる。また「共有地の悲劇」や協調ゲームの含意についても論じる。


【キーワード】NIMBY問題、迷惑施設の立地、共有地の悲劇、協調ゲーム

NIMBY問題

“Not In My Back Yard(うちの裏庭にあってほしくない)”の頭文字を取ったもの。廃棄物処理場原子力発電所、空港の立地など。複数の地域で利用する施設を1箇所に建設することから、便益と損失バランスの不平等が発生する。各地域がそれぞれ自前で施設を保有すればこうした問題は発生しないが、「規模の経済性」(規模が大きくなると平均費用が小さくなる)が働く場合や、機能面の観点からある程度の規模が要請される場合(空港など)があり、現実問題として避けられない。


NIMBYタイプの公共性を実現するために必要な二つのこと。

  • どの地域に建設すれば社会的費用がもっとも低くなるかを見つける
    • 社会的費用は、建設費のほか、周辺住人がこうむる損失も計上される。後者は主観的要素や私的情報が含まれるため、計算は容易ではない
  • そうして決定された地域にその施設の建設を受け入れてもらう


NIMBYタイプの問題解決のアイデアとして、オークションが研究されている。
たとえば、各地域が迷惑施設の建設を受け入れたときにかかる社会的費用をそれぞれ提示してもらい、もっとも金額が低かった地域(地区Aとする)を建設地とする。このとき地区A以外の地域は、自分が表明した金額に応じた負担をしてもらい、地区Aに対する保証金とする、といった形の運用例がある。この手法は、「建設地として選ばれないために金額を高く設定する」という各地域のもつインセンティブを抑止する効果をもつ。さらに、建設予定地や保証金算出の行政コストが低く抑えられるといった利点もある。

共有地の悲劇

Commonsの悲劇ともよばれる。生態学者 ギャレット・ハーディンが提唱。共有地において、個人の利害に最適化した戦略をとった場合、全体としての資源が失われてしまい、結果的に各個人も損失に直面するというタイプの問題。

「外部性」
個人や企業などの経済主体が行う消費や生産などの活動が、市場の取引を経ないで他の経済主体に直接影響を与えること。共有地の悲劇が起こる要因とされる。効果のプラス/マイナスに対応して、正の外部性(外部経済)/負の外部性(外部不経済)の分類がある*1


対策の例としては、環境税のような課税など、外部性の効果を考慮させるような政策を行うなど。ただし、経済学者 エリノア・オストロム*2らの研究によって、多くの地域社会において自主的なルールや管理体制を作ることで共有資源を適切に利用しており、こうした問題は回避されている(必ずしも悲劇が起こるわけではない)こともまた明らかになっている。

協調ゲーム

良好なコミュニティの形成は、地域における犯罪の抑制や、災害時におけるセーフティネットとしても重要であるが、住民ひとりひとりの協力が鍵になる。そうした課題をゲーム理論の観点から検討する。(調整ゲームともよばれる)


AさんとBさんの二人は、お互いに相手に対して、友好的な態度をとるか、敵対的な態度をとるかという選択に迫られている。各プレーヤーの戦略と効用(利得)を表したのが以下のマトリクス。

  Bさん友好的 Bさん敵対的
Aさん友好的 (10,10) (-5,1)
Aさん敵対的 (1,-5) (0,0)


このゲームのナッシュ均衡(各プレイヤーの最適反応同士の組)は「Aさん友好的‐Bさん友好的」と「Aさん敵対的‐Bさん敵対的」のふたつ。このふたつの合理的判断のうちどちらが実現するかは分からないが、協調して双方の利得が高くなる前者の実現をめざすことが望ましい。


このゲームを多数のプレイヤーN人で考えた場合、自分を除くN-1人のうち、友好的戦略をとる人が多い場合は自分も友好的戦略をとる利得が高くなり、敵対的戦略をとる人が多い場合はやはり自分も敵対戦略をとる利得が高くなる、といった結果になる。(ナッシュ均衡は、「全員が友好的戦略をとる」または「全員が敵対的戦略をとる」)


以上のことから分かるのは、合理的判断の帰結として、コミュニティ全員の利得を最大化する可能性がある一方で、コミュニティが崩壊する可能性もまた存在するという点である。

*1:負の外部性でいえば、その発生源となっている経済主体が他の経済主体に与えるマイナスの効果を考慮せず、自分の利益と損失のみを考慮して経済活動の水準を決定するために、社会的に望ましい水準よりも過剰な活動が行われる。

*2:彼女は女性初のノーベル経済学賞受賞者である。