『空気よむ』プロジェクト〜一般意志2.0 実装実験

本日、『空気よむ』というサービスを公開しました。

ツイッター検索を元に、タイムライン上で言及されているキーワードをリアルタイムに抽出するサービスです。取得したツイートを個別に言語解析を行い、キーワードの出現頻度に応じて強調表示されます。*1

使い方

検索キーワードを入力し「Search」ボタンを押してください。タイムラインが表示され、しばらくすると右側のエリア（Trends）に頻出のキーワードが表示されます。Trendsはタイムラインの更新に応じて、随時更新されると思います。されるはず。別の検索キーワードを試したい場合は、ページをリロードしてください。

たとえば「朝まで生テレビ」を観ながらTrendsの変化を追っていく、というのが真っ先に思いつく使い方です。どんな汚い言葉が並ぶのだろう・・・。なんて考えただけでソワソワしますね！（ただし現時点では、１キーワード＝５分間の自動更新までに制限していますが。。）

サービスの目的・課題など

このサービスは、東浩紀氏の著書『一般意志2．0』（書評）を受けて、現実のネット環境への実装を試みたものです。「専門家による熟議を、大衆の無意識が取り囲む（かつ専門家は大衆の声に必ずしも従わない）」という政治のモデル、それが民主主義の未来の姿だというのが東氏の提案だったわけですが、その第一歩として、刻一刻と変わるタイムライン上の「空気」を可視化することを目指したものです。

とりあえずの第一歩ですが、次の一歩はかな〜り大変です。自然言語処理、統計処理、ネットワーク分析、そして負荷分散を考慮したシステム実装など、どの方向へ進んでも一気にハードルが上がりますから・・・。

さまざまなアプローチがある中で、個人的な関心としては、「無意識の可視化を進めつつも、暴力的な言論をいかにして暴走させないか」というところにあったりします。東×濱野のニコ生思想地図で紹介された、ニコニコ生放送の炎上を防ぐ仕組み（生放送中、運営側に「荒らしユーザー」としてBANされると、他のユーザーには見えないが、本人の画面にだけ自分のコメントも流れ続ける仕組みになっているらしい）のようなアーキテクチャ設計に関わる部分ですね。

というのも、人々の感情や無意識（に近いもの）を可視化するという事は、非常に暴力的な装置になり得るわけです。「我々はもっと謙虚に、理性的であるべきだし、他者を理解するために無限の労力を惜しむべきではない」という熟議民主主義の理想が空虚なものであることは明らかになっている、この主張自体には僕も全く同意見です。でも同時に、人間の汚い部分、さらには自分（やその属性）を理不尽に攻撃して来る人間の存在をも可視化していくことに、僕たちは慎重な態度を取らなければならないと思います。特に社会的マイノリティの立場におかれた人々への配慮は必須です。

そのあたりの問題意識に関して、金明秀教授（@han_org）のツイートが印象深かったので紹介しておきます。

ここで言われているような点に東氏が全く無自覚だとは思わないし、「現実」の受け入れをマッチョイズム的に強要する立場だとも思いません。（14章に登場する「動物たちの弱いリバタリアニズム」という思想に僕は共感しています。）

ただその辺りはどうしても誤解され、そして当然に警戒されがちな内容でもあります。自戒を込めて言うと、上に挙げられた問題意識に自覚的であるべきなのは、東氏本人という以上に、これから実装を考えようという僕たち自身であるはずです。「どんな汚い言葉が〜」とさっきは書いたけれど、それを笑ってスルーできる人ばかりではなく、そうした前提を忘れてはいけないなと。

『一般意志2．0』の描く「夢」は刺激的でワクワクするものです。しかしその興奮のままに突き進んではいけない。金教授のような「抵抗」の声を上げる人たちは、必ずしも対立する存在ではなくて、システムの思想を形づくる上での重要な提言者のように思えるのです。

1/16追記

ちなみに『空気よむ』というサービス名から、ポピュリズム的なものを連想される方がいるかもしれません。それは『一般意志2．0』に対する批判としてもあるものですが、「大衆の無意識を可視化することと、その可視化された声に従うことは別のことである」というのが本書のキモでもあります。「ただ存在を認識する」、そのための可視化であり、認識した上で無視するというコミュニケーションがむしろ重要になってくるはずです。そうした前提を置いたとき、一般的に同調圧力の類として用いられる「空気を読む」行為とは全く別の、ポジティブな意味付けができるかもしれない。『空気よむ』というサービス名にはそんな希望を込めてみました。