AKB48峯岸みなみ丸刈り問題への言及まとめ。タマフル、ニコ生PLANETS他


ここ数日話題になってるタイトルの件について、自分の関心のある範囲でまとめてみました。なお僕自身の立場ですが、非AKBファンで、アイドル文化に関しては、労働問題や倫理の観点に立った関心が比較的大きい。というかんじです。

タマフル

アイドル文化に親しみながらも、自らの距離感を冷静に捉える(ように見える)タマフルメンバー評。僕にとっては素直に受け入れられる「良識派」の意見。

  • 宇多丸
    • 第一印象は、アイドル文化に関わることに萎えた。どうしても86年の岡田有希子の自殺がよぎってしまう。(「最悪のリアル」
    • 残酷ショーの功罪を論じてきたつもりだが、「よくないよくない!」言いながら喜んでいたという事実を改めて直視させられた。「今回の事件すらもお前は楽しむのかよ?」と自問し、それは「嫌だ」と感じた。とはいえ、これまで楽しんできたものとの線引きは自分でもまだ出来ていない。
  • コンバットREC
    • 世間一般にある嫌悪感と、ここまで残酷ショーを支持してきた自分たちの嫌悪感とではちょっと質の違うものだと思う。(AKBの)事務所と俺らは共犯だ。
    • 端的に晒し者。事務所はなぜこの動画を公開してしまったのか?
    • アイドルに負荷を掛け、それをショーとして魅せてきたわけだが、どこまでの負荷がセーフで、どこからがアウトなのかを送り手が分からなくなっている。「ただ残酷なだけでなにも生まない」というレベルのものまで出してきてしまった。恋愛禁止を主張する人たちもこれは望んでいない、と思いたい。
  • 宇多丸
    • これを楽しむという選択肢も(俺自身は嫌だけど)あり得る。だって俺たちがこれまで言ってきたことの延長にあるものだし。でも「自分の意志だから仕方がない」と言ってしまうなら、岡田有希子の「選択」はどうなるのか。
    • 今回の事件は明確に「異常なこと」。どうしてここまで追い詰めてしまったのかを考える必要がある。「アイドルだから恋愛禁止」という常識をそもそも問わなければいけないんじゃないか。
  • コンバットREC
    • 岡田有希子の時代とちがって今はネットもあり、「スキャンダル」を隠し通すのは極めて難しい。特に成人前の未成熟な女の子たちなら尚更だ。
    • 擬似恋愛を「マジ」と受け取ってしまう層がじつはかなりいるのではないか。応援する側もまた未成熟。
  • 宇多丸
    • 秋元さんは「恋愛禁止と言った覚えはない」という。「ただ、そんな暇はないはずだ」と…。
    • 一般的にいえば「恋愛は芸の肥やし」とも解釈できるわけで、恋愛禁止の根拠はそれほど明確ではないはず。
    • ファンが夢見るのはいいことだが、問題が発覚したときには生身の女の子であるという現実を見るほかない。
    • ルールの改正にまで踏み込む段階ではないか
  • コンバットREC
    • 矢口真理(モー娘。)の恋愛発覚時は即日脱退発表だった。
    • サンズエンターテイメント(元イエローキャブ)の野田社長は「アイドルのSEXは止められない」と本音を漏らす。その上で「バレないようにやれ。ただバレたときは俺の仕事」と言うが、その方法論はもう限界だろう。(後述の補足記事も参照)。
    • ただAKB48の場合、運営と事務所が分かれているという問題がある。
    • (個人の選択による「恋愛しません」も含めた)恋愛解禁もありじゃないか。現に山口百恵×三浦友和カップルは周知の関係にあったが、問題なかった。人気投票システムをもつAKBなら出来る。仮に実現させるのであれば、過去に恋愛問題で辞めたメンバーもすべて戻す、そこまでやるべき
  • 宇多丸
    • かつて木村拓哉は、一般人の彼女がいることを公言しながら人気ナンバーワンだった。ところが男性アイドルのジャニーズでさえ、その後に続く流れを作ることができなかった。その歴史を変えることがもっとも革命的なのでは。
    • このままいけば反省合戦、よりエクストリームな反省パフォーマンスを求める流れに。行き着く先はひとつ(自殺)しかない。それだけは絶対に避けなければならない。
  • コンバットREC
    • AKBは実験の場に出来る。人気が落ちても責任は取れないけど(笑)
    • とにかく峯岸を追い詰めた責任は俺たちにはある。そもそも総選挙の負荷がエンターテイメントの枠に収まっているのかという問題がやっぱりある。映画『DOCUMENTARY of AKB48』前田敦子が追い詰められたシーンもまた、いま改めて考えるとエンターテイメントとして捉えてよいのか疑問。(参考
    • アイドルに負荷かけないようにしたらどうなるか、の実験をしてるのがさくら学院
  • 宇多丸
    • アイドルに限らず人気を競う者は、原理的に負荷が掛かることは避けられない。「芸能共産主義」はあり得ないのだし、「ある程度」の負荷は認めざるを得ない。その線引きはここでは語り切れないけれど…。


なお、コンバットRECさんによる野田社長についての言及は、以下の補足も参照のこと。豪streamも聞きたかったのだけど、残念ながらアーカイブされてないみたい。*1


吉田豪 コンバットRECが語る 野田社長がアイドルを守れた時代

吉田豪野田社長が文春相手に交渉出来るかって言ったら、無理だよね。

コンバットREC)無理無理。だから野田社長が言っていたやり方が、もう時代にそぐわないのよ。昨日、(ウィークエンド・シャッフルの放送を聞いて)「野田社長の(やり方)が正解!」って言っている人がいて、俺の意図と反した広まり方をして、困ってるんだよ。

ニコ生PLANETS評

一方、同じくAKBファンでもより熱狂的な立場を表明しているのがPLANETSの面々。


ニコ生PLANETSライジング「AKB48白熱論争2」宇野常寛×小林よしのり×中森明夫×濱野智史
ニコ生PLANETS 『AKB48白熱論争2』実況まとめ #nicoron - Togetter


生放送を一度見たきり(タイムシフト予約忘れた)で、実況ツイートも断片的にしか拾えなかったので、記憶違いもあるかもしれないけれど、おおよその発言要旨は以下のとおりだったはず。

  • 小林よしのり
    • 「峯岸パンクやなあ。見直した!」が率直な印象。女性で坊主といえば、わしらの世代は瀬戸内寂聴。俗世間を捨てます、という覚悟を見せられた。だから、尼さんはカルトなのか? 当然ちがうだろ? という話。
    • 今回の行為は峯岸本人の判断。システム云々いう意見があるが、どこまでが環境由来で、どこからが本人の意志かなんて判別できない。「人権」を叫ぶ人たちは彼女を被害者と見るだけで、本人の主体性を一切認めていない。そっちの方が問題ではないか。
    • (宇野氏のルール明確化提案を受けて、)曖昧な部分を残すことで成り立つ魅力というものがある。プロレスはルールを厳格化→総合格闘技化したことでつまらなくなった。AKBはいまが最高に面白い。つまらなくさせるような施策導入には反対。
    • 峯岸やAKBメンバーの自殺(最悪の事態)が懸念されているようだが、そんなことが起こるとは全く考えていない(あり得ない)。どんな組織でも自殺者が出るときは出る。
  • 中森明夫
    • 正直、峯岸に関してはこれまで注目して見てこなかった。ただよくよく考えると、AKBの中でもっとも長く人生を捧げてきたのがじつは峯岸。その彼女による今回の決断の意味は重い。そのことをわれわれは受け止めなければならない。
    • アイドルの悲劇といえば岡田有希子の自殺。僕もファンとして/アイドル評論家として、加害者側(注:という表現を使っていたかは不明)として関わってしまった自覚がある。毎年命日には彼女の墓前で手を合わせている。それで彼女に報いることができているとは思っていないけれど。
    • 岡田有希子の事件を思えば、今回の「事件」なんて比較することすら馬鹿馬鹿しい。そもそもこれは、あくまでもアイドルとファンの間の問題であって、外野が騒いでいるに過ぎない。
    • アイドル文化とは芸能である。芸能とはよくもわるくもこういうものだ。
    • (約7割が今回の峯岸の判断を「支持しない」という視聴者アンケートを受けて、)ネット世論を相手にアンケートすれば当然こうなる。テレビ中心の層が相手ならまた違った結果になるだろう。これが世間の声だと思っていると間違いが起こる。
  • 宇野常寛
    • よしりんや中森さんの言いたいことはよく分かる。ただ、AKBの外部(社会)をまったく無視していくことは不可能だと思う。AKBを存続させるためにも、世間と共存するための対策は必要。
    • 当然のことながら「サリンは撒いていない」が、AKBに対して「カルト(=オウム)」的な視線が向けられる要素がないわけではない。そのことは自覚が必要。「異形のもの」に対する恐怖心を取り払う努力をしなければ、AKBはやがて社会から排除されてしまうのではと懸念している。
    • AKBの魅力はルールの明確化(総選挙、じゃんけん等)にある。他方、不祥事発覚に際しての対応については依然としてブラックボックスになっている。じっさいに今回、みぃちゃん(注:峯岸を終始この愛称で呼んでいた)の処罰が他のメンバーと比べて軽いのではないかと噂されていた。不祥事が起きた際のペナルティもまた明文化すべきではないか。
    • 恋愛禁止の緩和も検討すべきかもしれない。
    • 一口に「AKBファン」や「運営」といっても、まさにこの場で対立が起こっているように、じっさいにはまったく一枚岩じゃない。
    • 小林・中森両氏に対して(やや弱腰な)反論をしながらも、最終的には「僕らAKBファンはこんなことで絶対に負けませんから!」と団結宣言。
  • 濱野智史
    • AKBのことを嫌いな人たちが「カルト」という言葉を使っているわけだけど、それがAKBのメンバーを傷つけている。
    • 上記発言に対しては、「あなたの『前田敦子はキリストを超えた』という「宗教」イメージの影響も大きいんじゃないの?」と中森氏につっこまれる場面も。
    • 小林・中森両氏に同意の相槌を打ちながらも、終始口数は少ない。


タマフル評に共感する僕は、ここでのやりとりにまったく満足できなかったのだけど、ちょうど同じ番組を見ていたコンバットRECさんのつぶやきがすべてを言い表してるように思えました。



「なんでもかんでもあずまんかよ!(と東氏本人も思っていそう)」といった気分はあるものの、たしかに他に適任者がいないようにも思えるのですよね…。また、中森氏の「毎年命日には彼女の墓前で手を合わせている。それで彼女に報いることができているとは思っていないけれど」という発言が出た場面では、思わず「うげっ!」と気分が悪くなりました。。



宇野氏は著書のなかで、美少女(ポルノ)ゲームを肯定的に論じる東氏にたいして、ヒロインの少女に対する自身(主人公=プレイヤー)の行為を表面的には恥じ、反省しながら、しかしそのレイプ・ファンタジーそのものは決して放棄しようとはしない──そんなある種の居直りにも似た態度を強く批判し、「マチズモを強化温存する『安全に痛い自己反省パフォーマンス』にすぎない」と断じています*2。僕には、中森氏の「懺悔」がそれにしか見えません。おそらく、宇野氏には当然そのように映っていたはずです。でもあの場では「仲間」への遠慮があった。憶測かもしれないけど、僕にはそれがとてももどかしかったです。


また、濱野氏は「アイドルとファンの間の問題なのに外野が…」という論調に(どこか控えめに)賛同していました。その感覚自体は分からんでもないという気もします。でもさ。「AKBのシステムは画期的だから政治に活かせるんじゃね!」といった趣旨で本まで書いて/書こうとしているわけで、こういうときだけ社会から切断するという態度はズルいのではないでしょうか。

追記1(2013.02.09)

えいじさんより、小林よしのり氏擁護のコメントをいただきましたので、若干の補足をしておきたいと思います。


まず、ニコ生視聴中に僕がツイートした「いつか自殺者が出てもなお賞賛する流れはイヤだ」という発言はあくまでも僕の感想であり、出演者による発言・主張を実況したものではありません。その上で、なぜ僕がそのような感想を持ったかについて説明します。


えいじさんの仰るように、たしかに小林・中森両氏は、過度な負荷によるAKBメンバーの自殺可能性を否定しています。しかしその認識こそが問題ではないかと僕は考えています。なぜなら、「最悪の事態(=自殺、またはそれに類する行為)はありえない」とする立場を取り、しかしながら、万一その「最悪の事態」が実現してしまった場合に起こることは、

  1. 自殺者が出た後になって、ことの重大さに「初めて」気付く──岡田有希子の自殺を目の当たりにしていたにも関わらず。。
  2. 自殺者の志の純粋さを賞賛し、その行為を(程度の大小はあれど)肯定する


のいずれか(あるいはその両方)しかありません。僕が番組中にツイートしたのは後者の可能性にかんしてですが、もちろん前者の可能性もありえます。しかし前者が後者よりマシな態度であるか云々は些細な問題にすぎず、自殺者が出てしまうような条件そのものを問いたいと僕は思っています。小林氏は番組中「そんなことはありえない」と断言していましたが、その認識は楽観的すぎるように思うのです。


両氏に限らず、現時点で「自殺者が出てもなお賞賛する」などと表明する人は、おそらく、いないでしょう。むしろ「ファンがそんなこと望むはずがない」とすら言うのではないか…。他方で、「本気の恋愛なら、AKB48を卒業して」に象徴される「嫌なら辞めればいい」論法や、「つまらなくさせるような施策導入には反対」から読み取れる、アイドル文化の純度を優先し、環境の改善をなおざりにする態度は、アイドルとして活動する人たちを──小林氏の意図に反して──追い詰める状況を作りだし、固定化してしまう典型的な姿のように思えます。より充実したケアを受けられる環境でアイドルとして関わることができる道、というものを模索できないものかなと。言うまでもなく、アイドルもまた生身の人間であり、どう解釈しようとも労働者としての側面は捨てられないのですから。(もしかしたら、小林氏はそもそもその論点を否定する立場かもしれませんが)


小林氏は「人権」派を揶揄して、「アイドル本人の主体性を一切認めない」連中だと批判しています。しかし小林氏自身が認めるように、「どこまでが環境由来で、どこからが本人の意志かなんて判別できない」わけですから(※この点に関して指摘あり。追記2を参照)、構造=システムの問題もやはり一方には存在するはずです。個人の主体性や実存のロマンに過度の比重を置く小林氏の立場もまた、バランスを欠いていると言わざるを得ないのではないでしょうか?

追記2(2013.02.11)

上記のうち最後の段落について、「“どこまでが環境由来で、どこからが本人の意志かなんて判別できない”という趣旨の発言は、小林氏ではなく宇野氏のものではないか?」という指摘をえいじさんよりいただきました。


記載いただいた文字起こし(要約)を見る限り、たしかに宇野氏の発言であるように思われます(僕の記憶違いだったようで失礼しました)。ただ、小林氏もまた宇野氏のこの論点──パーソナリティとシステムというふたつの論点が存在すること──は承認した上で議論を続けているのであり、追記1での主張は大筋ではなお維持できるものと考えていますが、現在のところ原典(番組動画)を確認できる状況にないため、該当箇所については一旦保留とさせていただきます。申し訳ありません。

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*1:参考記事に実況Togetterらしきものだけ載せておきました。

*2:宇野常寛『ゼロ年代の想像力』p.203