猪瀬副知事「東京都の尖閣購入は本来外交問題じゃなかった」


日本の領有は正当/尖閣諸島 問題解決の方向を考える


尖閣諸島購入については、「また例のナショナリストが……」とぼんやり思っていたのだけど、東京都(猪瀬副知事)の見解はちがうようだということが分かったのでまとめてみました。

尖閣諸島購入の経緯

東京都の見解は、

  • 尖閣諸島は日本の領土である。
  • ただし、国は40年にわたり島を賃貸してきたが、中国との関係悪化を懸念して保全を怠ってきた。そのため、これ以上の放置=環境破壊になってしまう現状がある。東京都は小笠原の世界自然遺産も含めて、環境調査等をやってきた実績があり、島の生態系をきちんと維持すべきと考えている。
  • また、尖閣周辺は漁業資源が豊富だが、島に最低限の設備もないため漁船を一時的に停泊させることも出来ない。電波塔、船だまり程度の設備はいずれにせよ誰かが管理しなければならない。
  • 地権者の寿命の問題もあり、相続の問題が発生する前に所有権を東京都に移す手続きを取ることに。そこで適正価格含め、民主主義のルールに則った調査・プロセスを踏み、情報公開しながら進めてきた。この時点では単に管理の主体が変わるだけであり、外交問題ではない(国内の所有権移転の問題に留まっている)。
  • ただオーナーが「手付金がほしい」と言ってきた(島も投資目的で持ってたみたい)。都としては民主的なプロセスを踏む以上、事前に金を渡すことはできないと説明。
  • ほぼ金額の目処が立ち、具体的な手続きが進むことになったところで国が割り込んできた(外務省から国へ「石原にやらせておくと危ない。止めてくれ」との話が出たとか)。都の提示した金額を上回る額やビジネス上の利益(税務署の対応とか)を考え、オーナーは国への売却を決める。ただし国は購入金額の根拠について説明ができない。もちろんこのお金の出所は国民の税金。
  • こうして島の国有化が決まる。ところが中国からしてみると、国有化=軍備増強という解釈に。ここで外交問題に発展。東京都からすると、国内問題を国際問題に発展させたのは野田政権の落ち度である。
  • 金額の目処が立った頃、猪瀬副知事の呼びかけで尖閣購入の寄付を募り、約15億円を確保していた。これは税金を節約するための方法論であり、猪瀬副知事が主導して進めたもの。石原知事のイデオロギーとは無関係
  • 寄付金は「島々が有効に活用されるための施策」にあてられる。国の購入が決まってしまったが、都が計画していた電波塔や船だまりを国(次期政権)が進めてくれるのであれば、寄付金は国に渡し活用してもらう予定。


と、おおむねこんなところのよう。

寄付金について

以上の経緯から、「石原知事が外交問題を引き起こした」という話が誤解であることは理解できました。ただしそれとは別に、東浩紀氏も指摘するように、東京都が島の購入代金にあてる寄付金を募ったという事態が、国内のナショナリズムを不用意に煽った(石原知事のイデオロギーも相まって)という側面は確実にあるでしょう。僕も猪瀬氏は信頼しているけれど、この判断にはもっと慎重であって良かったように思います。


これもニコ生思想地図の対談で語られていることだけど、「日本固有の領土である」という主張が正当であるとしても、歴史を知っている人間とそうでない人間がするのでは全く意味がちがってしまう。正当性の背後にある複雑な事情を想像することが出来ないからです。いま尖閣問題や竹島問題で熱くなっている人たちの多くは、自分と同じように、歴史を学んでこなかった人たちのような印象しか持てません*1。そうした人たちに対して、政治はどのような言葉で語りかけていけばよいのか。こうした根深い問題を前にして、大きな話をしていく必要性をより強く感じます。

*1:もちろんこれは教育政策の問題でもあるわけですが。