公共哲学('10) 第12回 デモクラシーと公共性(講義メモ)

デモクラシーと公共性

公共性とデモクラシーは不可分の関係にある。排除のない公共の議論は、政治的な意思形成‐意思決定が正統であるための条件であり、また、政府に説明責任を求め、その活動を批判的に監査するための条件でもあることを明らかにする。


【キーワード】討議デモクラシー、民主的正統性、民主的統制、公共的理由

デモクラシーについて

政治的な意思形成‐意思決定がデモクラティック(民主主義的)である条件。

  • 意思決定によって影響を受けるあらゆる当事者がそのプロセスに参加しうる。特定の人々を排除しないこと(inclusiveness)
  • 意思形成のプロセスに参加する際は、対等な条件が保障されること(parity)


デモクラシーには二つの契機がある。

  • 開放性の契機
    • 非排除性
    • 意思決定を問い直すプロセスが開かれていること
    • 人民(主体)の定義が未完了であること
  • 閉鎖性の契機
    • 政治的な権利をもつメンバーの決定する。誰が市民であるか、当事者とは誰か、というフレーミングの必要性
    • 決定


多数者による意思決定が正当性を得て、少数者が民主的空間に留まるための条件

  • 意思形成のプロセスが正当であること
  • 意思決定の修正可能性をもつこと
  • 意思決定のプロセスそのものが修正可能であること

熟議(デリバレーション)に基づくデモクラシー

利益集約型

aggregation model。競合する私的利害を調停・妥協していくプロセスを民主主義と考える立場。利益集団多元主義論者 ロバート・ダールなどが代表的。

  • 利害関心や価値観を所与のものと捉える
  • 他者は対立する利害関心を持っている
  • 私的合理性をもって行動するに対抗
熟議(討議)デモクラシー

ユルゲン・ハーバーマスが代表者。自らの主張を妥当なものであると互いに説得する共同のプロセスと捉える。

  • 利害関心や価値観は、意見の交換によって相互修正が生じるとする
  • 他者は単なる競争相手ではなく、自分には開かれていない世界の側面を理解する上で重要なパートナーである
  • 三者の立場を考慮に入れる理性を重視。熟議の参加者は公共的なパースペクティブを探求せねばならない

熟議デモクラシーに対する三つの批判

情念の契機を排除しているのではないか

主にシャンタル・ムフマイケル・ウォルツァーらによる批判。これに対しては、討議のプロセスは情念を排除しないとの反論もある。情念を非理性的なものと捉えるのではなく、規範との関係において損なわれた期待を表すものと解釈することで、討議の過程に内在していると考えることが可能とされる。

熟議の機会の不平等性

ひまな人間以外は熟議に参加できず、各個人のもつ関心の範囲もまた有限である。パートタイマーとしての市民を前提とすべきであるとする批判。代表的な改善のアイデアとして以下が挙げられる。

  • 討議の日を制度的に設定する(Deliberative Polling)
  • 観察者(観客として)のデモクラシー。各個人がもつメディアを利用した批評のコミュニケーションを行う、など
言説を重視し、行為を軽視しているのではないか

公共的な空間においては、語られる言葉は限定的で、閉じていく傾向にあり、デモや抗議活動などの直接行動(アクティヴィズム)もまた重要である。「不運」を「不正義」に変えていく活動(従軍慰安婦問題など)には、言論だけではたしかに不十分である。

デモクラシーの課題

立憲主義との関係

人民主権と人権、デモクラシーと立憲主義の間には緊張関係が存在する。デモクラシーの暴走に対しては立憲主義によって歯止めをかけ、他方で司法による判断のみを重視せず、法的な判断そのものを問い直すこともまた必要である。

グローバル社会における民主的公共性

意思決定において、メンバーと利害関係者のズレが生じる「デモクラシーの欠損」。国際社会において民主的な意思決定をコントロールすることができるかが大きな課題となっている。


代表的なアイデア

  • 国内と同様にフォーマルな公共圏を構成していく
  • インフォーマルな公共圏において言説をめぐる争いを活性化していく。国際舞台での発言者に対する働きかけを通じた間接的運動
  • 意思決定における当事者は会議に代表を参加させられるような制度を設ける